野菜と窒素-硝酸態窒素とは?

考える人

硝酸態窒素とは?

食の安全性に興味のある方で、野菜に含まれる「硝酸態窒素」を過剰に摂取すると良くない、という話を聞かれたことがある方も多いかと思います。「硝酸態窒素」は「硝酸性窒素」や「硝酸塩」という言い方をする場合もあります。具体的な健康被害例は、高濃度の硝酸態窒素を含む野菜や井戸水を摂取したことが原因で、幼児がメトヘモグロビン血症(ブルーベビー症候群)になったというものが有名です。情報によっては、単純に「硝酸態窒素」=「悪いもの」とするものもある気がします。そもそも硝酸態窒素とはどのようなものでしょうか?
私は大学の農学部で「イネ―マメ科二毛作におけるN施肥効率(N動態)に関する研究」を卒論のテーマとしていました。その研究していたときの記憶では、硝酸態窒素とは、植物にとって重要な栄養素だったと記憶しています。ですが、大学を卒業して20年近くたちますし、恥ずかしながら学生時代はモラトリアムの意味を勘違いし、無目的にぼんやり過ごしてしまったので(もっと勉強すべきだったと後悔しています)、今一度、硝酸態窒素、特に土の中の窒素と植物が吸収する過程について仕組みを復習してみます。正しい理解のためには、正確な知識が必要です。

植物にとっての窒素

植物にとって窒素(元素記号でいうとN)は重要な栄養素のひとつです、植物を形作るたんぱく質を作るのに必須の元素です。ちなみにたんぱく質(アミノ酸)は、水素(H)、炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)の5種類のみでできています。というわけで、植物にとって窒素は、人間に例えると主食のお米ぐらい大切なものです。
なお、農業で使う肥料(化学肥料も有機肥料も)といえば、ほとんど窒素成分を含んでいます。肥料の袋の後ろを見れば窒素成分が〇%などと書いてあります。例えば、京都長尾ファームにある肥料の袋です。これはアンモニア性窒素が14%含まれていることを示します。
肥料袋

 

で、この窒素は地球上を形を変えてぐるぐる回っています。大気中の窒素N2の形で植物が吸収すると思われるかもしてませんがそうではありません。生態系の中では、常に形を変えて化合物として存在しています。

下の図は生態系の窒素の循環を示したものです。細部の差はあれ、農学の教科書には必ず出てくる図です。
Nitrogen Cycle ja.svg
By Cicle_del_nitrogen_de.svg: *Cicle_del_nitrogen_ca.svg: Johann Dréo (User:Nojhan), traduction de Joanjoc d’après Image:Cycle azote fr.svg.
derivative work: Burkhard (talk)
Nitrogen_Cycle.jpg: Environmental Protection Agency
derivative work: Raeky (talk) – Nitrogen Cycle.svg
Nitrogen_Cycle.jpg, CC 表示-継承 3.0, Link

 

土の中の窒素

土の中の窒素は有機体(たんぱく質・アミノ酸)から無機態(アンモニウム、亜硝酸、硝酸)へと条件などによって変化します。土の中の窒素の変化は、単純に書くと次のようになります。

たんぱく質(動物の死がいや植物)
アミノ酸(R-CH(NH2)COOH)アンモニウム(NH4+)亜硝酸(NO2)硝酸(NO3)

で、ここで言いたいことは、最終的に植物が吸収するのはほとんどが硝酸態窒素であるということです。稲などの一部植物はアンモニウムの状態でも吸収できますし、また、最近では植物は有機体窒素であるアミノ酸の状態でも吸収することが分かっていますが(私が大学で勉強したときは植物は無機態窒素だけを吸収すると習いました)、植物はほとんどは硝酸態窒素の状態で窒素を吸収します。植物は、有機肥料でも化学肥料でも結局吸収するのは硝酸態窒素です。

植物の中の窒素

では、植物が吸収した硝酸態窒素の動きはどうなっているのでしょうか?
植物は吸収した硝酸態窒素と、光合成で生成した炭水化物からアミノ酸やたんぱく質を合成します。
植物の中での窒素の動きはこのようになっています。

硝酸亜硝酸アンモニウムアミノ酸たんぱく質

土の中の反対の動きです。ここで植物中では吸収した硝酸態窒素が多すぎると、亜硝酸に変化せずに余った硝酸態窒素が蓄積することになります。窒素成分を含んだ肥料を過剰に施し、根から吸収した硝酸態窒素が多すぎると植物の中に蓄積するということです。つまり、硝酸態窒素が悪いわけではなく、過多の硝酸態窒素が悪いということです。もちろん化学肥料でも鶏糞などの有機肥料でも過剰に投与すれば、野菜の中に過剰な硝酸態窒素が蓄積する可能性はあります。

野菜を見る時のポイント

窒素が良く効いている野菜かどうかを見分けるポイントは、窒素成分は葉緑素を作る元でもありますので、窒素が良く聞いている野菜は緑が濃くなります。そして柔らかい野菜になります。
かといって、窒素肥料が効いていない野菜は固いですし、黄色っぽくなって見た目はよくありません。京都長尾ファームとしても、生産者としてこのあたりのバランスを図りながら適切な肥料管理に努めたいと考えています。

 

(参考資料)
「栽培システム学」 稲村達也編著 朝倉書店
「たんぱく質の一生-生命活動の舞台裏」 永田和宏著 岩波新書
農林水産省 野菜等の硝酸塩に関する情報http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/syosanen/index.html

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